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山形地方裁判所 昭和63年(ワ)94号 判決

主文

一  被告らは連帯して、原告山口健に対しては金一一万円、その余の原告らに対しては各金一八万五〇〇〇円及び右各金額に対する昭和六三年三月二三日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の申立

一  原告ら

被告らは連帯して、原告山口健に対しては金二二万円、その余の原告らに対しては各三七万円及び右各金額に対する昭和六三年三月二三日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言。

二  被告ら

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  原告らの請求原因

一  「国利民福の会」の概要と仕組み

昭和六二年のはじめころ、いわゆる「ねずみ講」と云われる「天下一家の会」の元理事被告平松重雄、同葉山謙及びジャパンライフ(羽毛布団のマルチ商法)の幹部被告植村良三らが中心になり大阪府吹田市に本部をおいて、組織した「国利民福の会」は、国債の売買を中心とした無限連鎖講を目的として国債配当組織であり、そのシステム(以下「本件配当組織」という。)は別紙1のとおりであるが、概要は以下のとおりである。

1  講の加入希望者は、三〇万円の国債(一〇万円の国債二枚と五万円の国債二枚)を購入し、本部が指定する二人の先加入者(先輩会員)にそれぞれ一〇万円と五万円の国債各計一五万円の国債を送付するとともに、別紙2の新加入者申込カードに六万円の収入印紙を貼付し、先加入会員二名に国債を郵送したことを証明する書留郵便物受領書と住民票を同封して本部へ送付する。

そうすると本部から会員証が送付され、会員として確認される。

2  新会員になると本部から新しく二人の会員を勧誘するよう指示があり、書類が送られて来る。

本件配当組織は別紙1の図のとおり五段階のピラミッド制で、新会員はピラミッドの最下位に位置することとなる。

しかし、自己が二名の後位会員を勧誘すると四段目に昇格し、自己が勧誘した二名の会員がさらに二名ずつ勧誘すると三段目に昇格し、孫会員四名から一五万円ずつ計六〇万円の国債が送られて来る。

順次後位が新会員を増やして行くと一段目に登り、さらに最下位の一六名の会員から一五万円ずつ計二四〇万円の国債が送られて来ることになる。

以上のように全てが順調にいった場合は、合計三〇〇万円の国債を取得することになる。

3  しかし、国利民福の会は、昭和五三年一一月一一日に制定された(昭和五四年五月一一日施行)無限連鎖講の防止に関する法律が、明文上「金銭による無限連鎖講」を禁止しているのみで、「国債による無限連鎖講」はこれに該らないとの脱法的解釈のもとに考案された、いわゆる「国債ねずみ講」である(以下、請求原因において、「国利民福の会」を「国債ねずみ講」という。)。

二  国債ねずみ講の法的性格

1  最終的には必然的に七七%以上の会員が被害者となる。

本件配当組織は、会員の利益がねずみ算式に増加する後続会員に依拠するものであるから、必然的に生き詰まりが生じ、その時には配当組織の絶対的最終二下段位の者は後順位会員からの国債送付は全くないままであることは必然であり、その被害者数は確実に七七%になる。その他、後続会員の勧誘を断念した者も含めると、損害を受ける者は八〇%を超えることとなる。

2  本件配当組織は約八〇%の会員の犠牲によって成り立つものである。

ねずみ講という俗称のとおり、一人の会員が二名宛会員を獲得し、順次会員から国債送付により、国債購入のために出捐した金員よりもはるかに多額の国債を取得する仕組みになっている。

さらに、国債の送付を受ける三段位及び一段位の者(ピラミッドの頂点に立つ者)は、国債ねずみ講本部の全くの恣意により指定された者であるから、それがはたして新会員から見た場合真実その位置にあるべき者かどうか、またその者が本部のダミーの者でないかどうかを確認する方法は全くない。

3  破綻の必然性

ところで、本件配当組織が順調に発展した場合、原始会員一名から二五代目で一六七七万七二一六名、二七代目で一億三四二一余名を必要とすることになる。

このねずみ算式の数額から見ても、二、三年内に行き詰まることは必至である。

そして行き詰まった場合、最下部二段(四段目八名と五段目一六名)の者は当初の国債購入金を出捐したのみで、後順位からの国債送付はないから、損害を受ける結果となる。

4  国債の販売組織と回収の一体性

さらに、本講の会員となるための必要な国債の販売は、新会員が公的金融機関から購入するのではなく、本講の各県に存在する幹部が独占的に行い、その国債の販売については、本部がダミー会員を擁して後順位者から送付されて来る国債を本部に回収、回収した国債を各県幹部に送付し、回転する方式をとっており、国債の販売と回収を連結した方式をとっている。

右のような方式により、国債を容易に換金できることになる。

5  国債ねずみ講の射倖性、反社会性

本件配当組織は、それ自体何らの生産的機能を有せず、最終的には下部二段の多数の会員の犠牲の上に成り立っているものであるから、最終的には多数の被害者を出して、社会的混乱を惹起することは必然である。

そうして、本件配当組織は、労せずして一攫千金を夢見る人間の金銭的欲望をかりたて、労働意欲を失わせ、無為徒食の輩を生み出す可能性を秘めており、その仕組み自体が健全な社会を害する反社会性を有しているのである。

以上のことは、昭和四五、六年頃「天下一家の会」という、いわゆる全国的に広がった「ねずみ講事件」によって実証済みであり、社会的混乱は必至であり、最近の報道によれば、全国的にはすでに一万数千人の会員に増加しているとも云われている。

6  誇大宣伝による勧誘の必然性

本件配当組織のようないわゆる「ねずみ講」は、かって「天下一家の会」が社会的問題となったことから、社会的には是認されないものであるという認識が一般化している。

それにも拘わらず入会意欲をかりたてるためには、必然的にその利益の確実性、短期性及び利益の多額であることを熱心かつ執拗に訴えて行かなければならない。

しかし、実際利益に預る者は全体の一〇数%の者に過ぎず、大部分の者は、損害を蒙ったまま終結するのである。

したがって、そこでは必ず虚偽、誇大な宣伝による詐欺的勧誘が行われることになる。

7  結論

以上のとおり、国債ねずみ講のその配当機構は一般会員には全く不明であるばかりでなく、その存立自体が非生産的な射倖的意欲を増長するものであり、かつ約八〇%の会員の損失という暴大な犠牲のうえに成り立つものである。

したがって、その存立自体の破綻が必然的で、かつ短期間内に現れて来るものであるにもかかわらず、入会勧誘に際しては、その利益が短期間内に、しかも確実に取得出来ると誇張せざるをえなくなるのである。

それにもかかわらず、国債ねずみ講本部の被告平松重雄、同葉山謙及び同植村良三らは、かっての「天下一家の会」のねずみ講の実体及びその末路を十分知悉していながら、その幹部の暴利を再現すべく夢見て国債ねずみ講を考案し、破綻が必然であり、かつ会員のおそらく八〇%以上が損害を蒙ることが確実であることを認識しているにもかかわらず、組織的かつ広範囲に、利益が短期間に確実に得られることを説いて入会せしめ多くの者に損害を与えた。

これは民法七〇九条の不法行為を構成するものというべきである。

三  債務者の不法行為責任

1  被告らの経歴と役割

(一) 被告平松は、昭和四五、六年頃全国的に多数の被害者を出して倒産し、社会的な問題となった「天下一家の会」というねずみ講の中心的な幹部で、右「天下一家の会」が倒産のあと一〇数年を経て再び巨利を夢見て、国債ねずみ講を考案した者であり、全国的な責任者である会長として、各地に点在する幹部を指揮する地位にあった。被告葉山は、同平松と同様「天下一家の会」の理事であった者で、同じく巨利を夢見て国債ねずみ講の拡大に参画したものであり、同植村は、昭和五七、八年頃羽毛布団のマルチ商法で全国的に多数の被害者を出し、大きな社会問題となった「ジャパンライフ」の幹部であり、いずれも主に関東、東北を分担する本部の幹部であった。

(二) 被告鈴木は、同植村と同様「ジャパンライフ」の山形県における総代理店的な地位にあり、同植村の意を受けて、山形県内の国債ねずみ講の創設者たる役割を果した。

被告山口は、やはり「ジャパンライフ」の山形県内の幹部であり、同鈴木とともに、新入会者らに国債を販売する役割を担った。

(三) 被告らは、いずれもかってのねずみ講やマルチ商法の幹部的な経験者であり、それらの商法についての優れた手腕の持主である。

しかも、国債ねずみ講の幹部は、いずれもかってねずみ講やマルチ商法によって巨利を得たことのあるものばかりで、「類が類を呼んで」集まったかっての暴利を夢見て形成された集団である。

2  原告らの入会経緯

(一) 原告らは、昭和六二年一一月上旬から同年一二月上旬にかけて、知人などの紹介により、天童市に在住している被告山口を知るところとなり、その紹介で上山市内の同鈴木宅につれて行かれて、同山口の同席のもとに同鈴木から入会勧誘を受けたりして入会した者である。被告鈴木は、国債ねずみ講の入会方式や配当仕組みを説明したあと、次のように述べて勧誘した。

対象は金銭ではなく国債であるから、無限連鎖講防止法の違反には絶対にならない。

入会する以上は必ず二名を勧誘し、入会させなければならない。

入会後一ケ月位で一組(別紙1構成図参照)は完成するから、一ケ月後までには三〇〇万円が入って来る。私は既に七口入っている(会員証七枚を見せた。)。もう一口は終わって三〇〇万円が入ってきた。二、三〇日ぐらいで一組は終わるから絶対もうかる。

「国利民福の会」という名称は、かの有名な笹川良一先生がつけてくれたものであり、印紙六万円を貼付するのは国の財政に奉仕することになる。だから「本会」については大蔵省も通産省も公認しているものである。だから、絶対大丈夫な会である。

(二) 以上の説明を受け、原告らはいずれも入会する気になり国債を購入した。

そして、原告らは、入会手続として、被告山口に三〇万円を支払い、同被告から一〇万円二枚、五万円二枚の計三〇万円の国債を購入し、さらに手数料として同人に対し一万円を支払い、結局、同被告に対し、三一万円を支払い、その後、新加入者申込カードに六万円の印紙を貼布したため、入会に際し、それぞれ計三七万円を出捐した。

(三) 原告らの入会経緯の明細は別紙3のとおりである。

3  被告らの不法行為責任

(一) 本件配当組織の仕組みは、〈1〉完全なねずみ講であり、〈2〉入会対象たる人間は有限であるから、ねずみ講は必ず破綻するものであり、そのため、〈3〉入会者中の七七%の者は確実に損害を受けるものであり、〈4〉しかも、入会者は常に利益を得る可能性よりも、損害を蒙る可能性がはるかに多いものである。

このように、国債ねずみ講は本質的に社会的に是認されない反社会性を有するものである。

(二) 被告山口及び同鈴木は、原告らに対する入会の勧誘の際、「無限連鎖講防止法」の禁じているのは金銭配当組織であり、国債については同法の取締の対象とならないから、反社会性を有しないと説明した。

そうして、早晩、本件配当組織が破綻することを充分知りながら、六万円の印紙を貼付するのは国に奉仕するためであり、したがって、大蔵省、通産省も公認の組織であるなどと説明し、利益を短期間に、かつ確実に取得できると欺罔して原告らを入会させ、結局一人当たり三七万円の出捐をさせた。

(三) 原告らの脱会の申入れ

原告らは、ねずみ講に対する認識が不十分であったため軽率にも入会してしまったのであるが、その反社会的な内容を認識するに至り、これを脱会しようと決意し、昭和六三年二月中旬頃に被告鈴木や同山口に脱会を申入れ、国債もしくはその債権額相当の金員の返還を求めたが拒絶された。

ねずみ講の社会的な害悪を考える時、原告らが、会員の勧誘をひかえ、これ以上の被害の拡大を防ごうとした判断であり、そのために後続会員からの国債送付がなくなり、結果的には被害を蒙ることになったとしても、その被害の責任を、そのような原告らに課すべきものではなく、そのような被害を生み出す仕組みを考案し、それを積極的に推進しようとした者にこそ課せられるべきである。

(四) 被告らは、本件講の反社会性、破綻の論理必然性を充分認識しながら、計画的かつ組織的にその拡大をはかり、暴利を得る目的のもとに原告らを欺罔して勧誘し、入会せしめたものであり、その違法性は著しいと云うべきである。

よって、被告らの右欺罔行為は民法七〇九条の不法行為に該当するものである。

したがって、被告らは原告らに対し、原告らの蒙った損害について、連帯して賠償する責任を負うものである。

よって、原告山口健については損害額の内金二二万円、その余の原告らについては損害額各三七万円及び右各金額に対する訴状送達の日の翌日以降である昭和六三年三月二三日から完済迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因の認否

一  被告平松重雄

請求原因一の1、2及び3は認める。同二は否認する。同三につき、1のうち被告平松に関する部分を認め、その余は否認し、2は不知、3は否認する。

二  被告葉山謙

請求原因中、被告葉山謙が国利民福の会の考案者、幹部及び講師であることは否認する。

三  被告植村良三

請求原因一のうち、1及び2は認め、3は否認する。同二は全て否認する。同三のうち、1は否認、2は不知、3は否認。

四  被告鈴木龍一

請求原因一のうち、1は認める、2の「新会員になると本部から二人の会員を勧誘するよう指示がある」との点を否認しその余を認める、3は否認する。同二は2に一部不知があるほかすべて否認する。同三の1のうち、(一)は不知、(二)及び(三)は否認、2のうち、(一)及び(三)は否認、(二)は不知、3は否認する。

第四  被告山口新弥

請求原因一のうち、2につき二人の会員を勧誘するように指示がある点を否認する、3につき否認する。同二は否認する。同三のうち、1は否認する、2の被告山口に関する部分を否認しその余は不知、3は否認する。

第五  被告鈴木龍一及び被告山口新弥の仮定抗弁

一  国利民福の会が公序良俗に反するものであるならば、原告らは自ら不法の原因のため金員を出捐したのであるから、民法七〇八条本文の趣旨に照らし損害賠償を請求できない。

二  右主張が理由ないとしても、原告らは国利民福の会が公序良俗に反するものであることを容易に知り得たにもかかわらず勧誘者の話を軽信したため不注意にもこれを知らずに入会したものであり、これにより損害を生じたとしても原告ら側にも過失がある。そこで、損害賠償額の算定にあたってはこれを斟酌すべきである。

第六  右仮定抗弁に対する原告らの反論

一  原告らは被告らの勧誘を信じたため国利民福の会が公序良俗に反するものとの認識を欠いていたから民法七〇八条本文は適用されないが、そうでないとしても、給付者である原告らの不法性が受給者である被告らの不法性より少ないから、同条但書により不法原因給付とはならない。

第七  原告らの右主張に対する被告鈴木龍一の認否

被告鈴木は国利民福の会の実体を知らないまま入会した会員にすぎず、原告らを勧誘するについてこれを欺罔したということはない。原告らのうちの若干名は勧誘もしてる。従って原告らの不法性が被告鈴木の不法性より少ないということはあり得ず、民法七〇八条但書には該当しない。

第八  証拠〈省略〉

理由

一  〈証拠〉を総合すると、国利民福の会は、被告平松重雄が創設したところの、国債を用いた無限連鎖講の組織であり、その仕組は別紙1のとおり、概要は請求原因一のうちの1、2のとおりであることが認められ、これを左右するに足る証拠はない(なお、請求原因一の1、2は、原告らと被告平松重雄、被告植村良三の間では争いがなく、原告らと被告鈴木龍一との間においては大筋において争いがない。)。

二  昭和六三年法律第二四号によって改正された後の無限連鎖講の防止に関する法律では「『無限連鎖講』とは、金品(財産権を表彰する証券又は証書を含む。以下、この条において同じ。)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもって増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出捐した金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織をいう。」と定義し(同法二条)、その金品の中に国債を含む趣旨を明記しているが、右認定にかかる国利民福の会の組織、内容によるとこれが右規定にかかる無限連鎖講に該当するものと認められる。

本件訴訟の対象となったのは右法律改正前のものであり、改正前の同法二条は、無限連鎖講の定義を「一定額の金銭を支出する加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもって増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の支出する金銭から自己の支出した額を上回る額の金銭を受領することを内容とする金銭配当組織をいう。」と定めており、国債が含まれていない。しかし、国利民福の会は、運用するものを国債とした点を除けば無限連鎖講であることに変わりなく、金銭ならば終局において破綻するが国債ならばそうならないという特殊性は認められず、右改正前の同法一条にいう、終局において破綻すべき性質のものであるにもかかわらず、いたずらに関係者の射幸心をあおり、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るもの、であることは同様であって、公序良俗に反するものということができる。従って、右法律改正前においても、無限連鎖講には該当しないとして国利民福の会を開設し、又は運営すること並びにこれに加入するよう勧誘することは、右法律に該当しないことを装って実質的には右法律の禁じた結果をもたらすことであり、民法七〇九条の不法行為に該当するものと認められる。

三  〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

被告平松重雄は、国利民福の会が右のようなものであることを認識しながらこれを創設し、会長としてこれを運営した。そして、新加入者申込カード(〈証拠〉)に六万円の収入印紙を貼付することを考案し、これを国家財政に寄与するものであると称し、あたかも政府から公認された組織であるかのように装った。

右被告の下に、右被告の意を受けて、会の宣伝及び不特定多数の者に対する加入勧誘をする「講師」と称する者が三名居り、被告葉山謙は主として関東地方を担当する講師であった。そして被告植村良三は、被告平松重雄の意を受けて東北地方において会の宣伝、勧誘の活動をした。

被告鈴木龍一は、被告植村良三に誘われて東京における会の説明会(この説明会で挨拶したのが被告植村良三、説明したのが被告葉山謙である。)を聞きに行った後に四口加入し、国利民福の会の右実態を知りながら、昭和六二年一一月から同年一二月にかけて行われた山形県内の説明会の会場を提供したほか、不特定の者に、おおよそ請求原因三の2(一)のとおり会の説明をし、加入の勧誘をした。

被告山口新弥は、被告鈴木龍一の紹介により千葉市における説明会を聞きに行き、自ら二口加入したほか、被告鈴木龍一が会場を提供した山形県内の説明会において、国利民福の会の右実態を知りながら、おおよそ請求原因三の2(一)のとおり会の宣伝をしたり自宅で説明するなどして、不特定の者に入会の勧誘をした。

四  原告らの加入は、右被告ら五名の意を通じた右行為があってなされたものであるから、右被告らは共同不法行為者としてこれによって原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

〈証拠〉によれば、原告らは、昭和六二年一一月中旬から同年一二月中旬にかけて、被告鈴木龍一または被告山口新弥のいずれか又は双方から直接に勧誘を受け、あるいは右被告らのいずれか又は双方に勧誘された者からの誘いにより右被告らのいずれか又は双方から間接に勧誘を受け、それぞれ新加入者申込カードに六万円の収入印紙を貼付し、手数料一万円を添えて被告平松重雄に送付したほか、別紙3国債購入・送付表のとおり金額三〇万円分の国債を購入のうえ、これを先順位者に送付し、合計三七万円を支出して同額の損害を蒙った。ただし原告山口健については本訴において請求額を二二万円としているので、二二万円を下らない損害額と認定する。

五  被告鈴木龍一及び被告山口新弥は、原告らの支出は民法七〇八条の不法原因給付であるから損害賠償請求権は無いと主張し、これに対し、原告らは被告らの不法性が大きいから同条但書に該ると主張するので判断するに、給付者において給付が公序良俗に反することを知り又は知り得べきなのに不注意によりこれを知らなかった場合でも、受益者の不法性が給付者のそれに比して著しく大きい場合には不法原因給付は成立せず給付者は受益者に返還請求をなし、また損害賠償の請求ができるものであり(最高裁昭和二九年八月三一日、昭和四四年九月二六日各判決参照)、不当利得返還請求における右の理は本件の不法行為に基づく損害賠償請求の場合も同様である。

そこで本件においてみれば、前述のとおり反公序良俗性に鑑みると、被告らの不法性が著しく大きいものということができる。従って不法原因給付をいう右被告らの主張は採用できない。

六  金銭を用いた所謂ねずみ講が、昭和五四年五月一一日施行にかかる無限連鎖講の防止に関する法律で禁止されたことは公知の事実であり、右法律施行前においても、「天下一家の会・第一相互経済研究所」主催にかかるねずみ講が全国的な社会問題となり、これが公序良俗に反し無効であるとする判決(長野地裁昭和五二年三月三〇日判決)のあったことも広く知られている。

本件は、金銭を用いた所謂ねずみ講が禁止されてから後のものであって、講加入に用いるものが、金銭ではなく国債であるという点を除けば同じ内容のものであり、所謂ねずみ講の一種であることは容易に認識し得たものというべく、原告小笠原繁本人尋問の結果によれば、同原告において被告鈴木龍一から、国債を購入して国家に協力するものと説明されたものの、ねずみ講であるとの疑いを持っていたことが認められ、これは他の原告らも同様であったと推認できる。

そこで原告らの加入によって被告らの不法行為が成立するについては、原告らの側も不注意があったものというべく、その過失相殺の割合は原告ら同一に五割とするのが相当であるから、損害賠償の額を定めるにつき斟酌することとする。

七  よって、原告らの本訴請求は、原告山口健につき一一万円、その余の原告らにつき各一八万五〇〇〇円及び各金額に対する訴状送達の翌日以後である昭和六三年三月二三日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言について同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤清實 裁判官 池田徳博 裁判官 高橋光雄)

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